全国各地の強豪が集い、激戦を繰り広げた若松ボートの「SG第60回ボートレースメモリアル(MB記念)」は31日に最終日を迎えた。注目の優勝戦は、2号艇の白井英治(37歳=山口)が2コースからタッチスタートを決め、インの谷村一哉をマクって快勝。これまでSGでは13回の優出でVを掴めなかった逸材が、この14回目にして、ついに悲願のビッグタイトル制覇を成し遂げた。
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若松ボートは来年、東スタンドの大幅な改築工事を行う。そのため、SGレースの開催はない。次にSGをやるのは早ければ2016年。または、それ以上に間隔が空いてしまうかもしれない。
ただ、次にSGがある時に「前回の若松のSGは誰が勝っただろうか?」と忘れてしまう人はまず少ないだろう。それほど、今回のSGボートレースメモリアル優勝戦は強烈なインパクトを残し、未来まで語り続けられていく、そんなレースだった。
無冠の帝王、白井英治がSG初優勝――。
ついに、ついに決めた。“SGに最も近い男”というあまり嬉しくない称号を捨てる瞬間がきた。それもスタートタイミングコンマ00のタッチスタートからマクるという劇的勝利。白井は「僕らしくていいです」と言って少し笑った。ずっとビッグタイトルを手にできない“持ってない男”は、もうどこにもいなかった。
SG優勝戦進出13回。そのすべてで散ってきた。準優でも何度も負けた。ウィナーになった選手が歓喜する反対側で、白井は引き波をかぶり、彼に光が当たることはなかった。ここ一番での精神面の弱さが突きつけられた。
ただ、そんなレーサー人生を歩む彼には、熱いファンが大勢ついた。大胆なレースっぷりや、男気ある性格はもちろん、SGの壁に何度ハネ返されながらも挑戦する姿に人は惹かれた。自身を投影した人もいるかもしれない。“応援したい”と思わせてしまうのだ。5日目準優勝利者インタビューで白井が若松スタンド内の会場に現れたら、異様なほど盛り上がっていたし、本番の優勝戦も、ピットアウト直後から水面際の大観衆からは「英治コール」「白井コール」が幾重に重なっていた。現場は白井一色といっていいほどの空気だった。全国各地にも拳を握って応援していた人がいるだろう。もしかしたら、そんな何百何千何万のファンから送られる勝ってほしいという強い想いが、あの“タッチスタート”というミラクルを呼び込んだのかもしれない。白井の乗るボートを、フライングという地獄には押し出させはしなかった。そんな気もする。
優勝表彰式は言うまでもなく、大歓声だった。「優勝できたのは支えてくれた皆様のおかげです。ありがとうございます」。白井がそうお礼を言うと、割れんばかりの拍手が送られた。待望の瞬間だった。その時、一般のお客さんも関係者もそう違いはなかった。新聞記者、雑誌記者、TVレポーターの中にも、上気した表情で、感極まっている人もいた。多くの人にとって、この夏、最高のメモリアルがここにあったのだ。
終わってみれば、2,1,2,落水,1,2,1,1着。ほぼオール2連対の抜群な成績である。過酷なSGの舞台でである。落水の減点で、予選上位から一時は30位付近まで下降したものの、すぐに挽回してV字型に頂点まで登りつめた。モーター47号機がよく噴いてくれたのは確かだが、やはりこの男が持つ素質、ポテンシャルは相当なものがある。「SGをいくつも獲れる男」と師匠の天才・今村豊は言う。
SG初優勝プレッシャーがずっとネックだったが、その自縛から解き放たれたこれから、逸材がどれほどの活躍を見せるのか――。身長174cm。その長い腕で、今後もいくつもの勝利を掴むはずだ。
2年後か3年後。もし若松でSGが開催されたなら、きっと再びその舞台に彼はやって来るだろう。その時は、艇界のトップに立つ最強・白井英治という姿で。もちろん、大勢の熱いファンと共に。
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(文:吉川)
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